フランスの医療保険制度は日本と共通している部分もありますが、非常に複雑です。しかし、こういった制度があることを覚えておくと、万一の時は心強い見方になります。
この記事では、フランスへ留学される方に向けて医療保険制度のしくみや概略などをご紹介してまいります。
■もくじ(ページ内リンク)
・医療機関受診における1ユーロの負担金義務(Participation forfaitaire)
・薬や医療補助的な施術における0,50ユーロの負担金義務(Franchise médicale)
フランスの医療保険について知識を深める
フランスでは、社会保障のことを「Sécurité sociale(セキュリテ・ソシアル)」といい、医療や年金などを包括しています。その中で留学生が関わってくるものが、「Assurance maladie(アシュロンス・マラディ:健康保険)」です。
フランスは、日本と同じ国民皆保険制度ですので、外国人を含めて正規に3ヶ月以上フランスに滞在される方は、保険料を払って公的医療保険(健康保険)に入ることになります。
詳しくは後述しますが、28歳以下は公認の高等教育期間へ3ヶ月以上の登録をする際、Sécurité sociale des étudiants(学生社会保障)へ加入することとなります。
29歳以上は手続きをすれば、個人でCMU(Couverture maladie universelle:普遍的医療保障)への加入が可能です。
フランスの健康保険へ加入しておくと、現地で医療機関を受診した場合、支払った医療費の一部がフランス人同様、還付されます。一旦医療費をご自身で立て替えないといけない点はネックですが、自己負担額を除いた医療費が戻ってくるのは有難いですよね。このような公的保障を上手に利用して、必要に応じて任意の保険を検討したいものですね。
フランスの社会保険の仕組みは非常に複雑ですので、まずは医療保険のしくみや日本人留学生に関わる事柄を重点的にまとめていきます。
フランスの医療保険制度の仕組み
海外旅行保険にどのような保障がいくらくらい必要になるのか、よく分からないですよね。保険を選ぶ際の情報として、医療保険制度についての概略をご紹介します。
<国民皆保険であるフランス医療保険制度>
フランスの医療保険制度は、数種類の職業(職域)ごとに制度が存在しており、この職域保険ごとにcaisse(疾病保険金庫)が設置され、それぞれ管理運営されています。
簡単に説明すると、農業や商工業など昔から存在した職業ごとの組合が、それぞれの疾病保険金庫によってまとめられている状態です。
フランスでは、日本のように退職したら保険の切替をするわけではありません。原則、退職前に加入していた保険制度が退職後も継続されます。
しかし、職域ごとに分けた場合、対象にならない方が出てきてしまいますよね。そこで国民“皆”保険をめざして、学生医療保険や職域対象外の方などに向けたCMU(基礎普遍的医療保険)が加わりました。基礎CMUは、外国人を含めて3ヶ月以上継続してフランスに居住する方は、公的な医療保障を受けられます。
この制度おかげで、今まで職域保険の対象とならなかった、低所得層の方も無料で補助を受けられるようになりました。
直近では2016年に、PUMA(Protection universelle maladie:普遍的疾病保護制度)と呼ばれるCMUの進化形ともいうべき制度が始まりました。
フランスは書類社会ですので、手続き自体に時間と手間がかかります。PUMAができたことで、医療保険の受給条件と登録・身分変更の際の手続きなどをより簡略化し、保険に未加入な在仏の方をさらに減らすことができるようになりました。
フランスには、多様な基礎医療保険がありますが、今回は一部のみご紹介します。
【フランスの基礎医療保険】
保険種類 | 該当者 |
①職域(数種類の職業)ごとの各基礎保険 | 該当するお仕事に従事している方、 もしくは以前従事されていた方 |
②学生用の基礎医療保険制度 (Sécurité sociale des étudiants) |
一定の条件を満たした28歳以下の学生の方 |
③ 基礎CMU(PUMA) | ①・②に該当されない方 |
<基礎医療保険を補完するMutuelle>
フランスの基礎医療保険を補う医療保険として、Mutuelle(ミュチュエル:共済保険または任意保険)が存在します。Mutuelleは、基礎医療保険で還付されない自己負担分を補う目的があります。基礎医療を補う目的ですので、Sécurité socialeへ加入している方であれば、Mutuelleに加入することができます。
Mutuelleは契約内容によって、還付率にも差が出てきますので、契約の際は事前に内容をよく確認する必要があります。「任意保険」と言っても、契約時に受け取れる金額を決める生命保険などとは、意味合いが異なることが分かりますね。
フランスでは現在、90%近い方がMutuelleに加入していると言われていますが、Mutuelleに加入できない一定の限度額以下の低所得者向けに、経済的負担を軽減するため、補足的CMUと呼ばれる制度が定められました。
なお、フランスではMédecin traitant(かかりつけ医)制度が導入されています。詳しくは後述しますが、例外を除いて、かかりつけ医以外の医師に初診時から診てもらうと、ペナルティが発生し、基礎保険の償還率が悪くなってしまいます。
このように、フランスの医療保険制度は2階式になっており、1階は基礎医療保険であるSécurité sociale(セキュリテ・ソシアル)2階は任意保険であるMutuelle(ミュチュエル)となっています。
こういった2段階で医療費を軽減できるしくみがあるのは、とても心強いですね。
<Carte Vitale(カルト・ヴィタル)とは>
基礎医療保険に加入すると、被保険者に「Carte Vitale」という健康保険証が送られてきます。カードにはICチップが付いており、さまざまな個人情報や保険データが入っています。
診察や検査、薬局での処方の際などにカードを提示することで、診療情報の保管や共有、そして診療費に関する手続きなどの様々な場面で活かされることになります。また、カードを提示すると、医療費の立て替えが不要になるケースもあります(元来、患者が一旦医療費を立て替え、CPAMに申請する形が普通でした)。Carte vitaleを利用した診療費の支払と償還手続きの簡略化が進むと良いですね!
なお、カードが届くまでの期間は、保険加入手続き後3ヶ月程度とされていますので、その間に医療機関を受診することがあれば、手続き完了後に受け取れる保険加入証明書を持参しましょう。万一、カードが手元に届かない際は、近くのCPAM(Caisse Primaire d’Assurance Maladie)へ確認しましょう。
現在、多くの医療機関ではCarte Vitaleを通す機械が設置されています。受診の際(まずは登録したかかりつけ医を訪れることになると思いますが)には、こちらの機械に通してもらって保険の適用を受けるようにしましょう(2017年7月現在)。
<かかりつけ医制度について>
フランスでは、かかりつけ医制度が採用されています。かかりつけ医の紹介状がなく、他の医療機関を受診した場合には、償還率が悪くなる(産婦人科や小児科など、例外あり)つまり、自己負担額が増えてしまいます。このペナルティに対しては、補足的CMUで補うこともできませんので、注意したいところですね。では、かかりつけ医の登録はどのように行うのでしょう。
まずは、かかりつけ医になってくれる医師を探します。Sécurité socialeに保険医登録をした開業医(セクター1または2の医師)で、主にGénéralisteと呼ばれる一般医を選択することが多いです。
一方で、それ以外の医師、Spécialisteと呼ばれる各専門医や病院勤務医を選ぶ方もいらっしゃいます。
登録するかかりつけ医は地理的な制約もなく、選択は自由です。受診しやすいことや、信頼できる医師を選ぶことが大切ですね。
ただし、アクセスのしやすさを考えると、持病を持っている場合などを除き、近所のGénéralisteをかかりつけ医に指定する方が安心感はありますよね。探し方は、知り合いや近所の薬局などに評判なども含めて教えてもらう他、Assurance maladieのサイトでも検索可能です。
Assurance maladieサイト http://annuairesante.ameli.fr/
希望する医師を見つけたら、書類を作成し、かかりつけ医の登録を行います。登録用紙に選んだ医師の同意とサインをもらい、自身の署名等を添えてCaisse d’assurance maladieなどの保険の事務所に提出します(最寄りの事務所に持参することをお勧めします。郵送の場合は必ず書留で送りましょう)。
申請の進捗状況は、ご自身の加入した保険会社のホームページ等で確認できます。
申請用紙は、保険事務所で入手できる他、次のページからダウンロードできます。
・申請用紙S3704 https://www.smerep.fr/ckeditor_assets/attachments/558184d7756d6727c8000038/s3704-declaration-medecin-traitant.pdf?1435588128
かかりつけ医を指定しても、本当にご自身に合うか不安が残りますよね。かかりつけ医は自由に変更可能で、前任医師への連絡も特に必要ありません。変更する際は、新たな医師と共にもう一度申請書類を作成し、最寄りのCaisse d’assurance maladie等の保険事務所で手続きを行ってください。
フランスでは、受診する際「かかりつけ医を通す」ことが強制されているわけではありません。ただし、特別な事情や先述した一部の例外を除いて、かかりつけ医を通さずに診察を受けてしまうと、自己負担額が増えてしまいます。
<医療費支払い方法>
日本で医療機関を受診した際、健康保険証を提示すると、自己負担額(通常3割)だけ支払っていますよね。自己負担額以外の金額(ここでいうと残りの7割)は、医療機関がレセプト(診療報酬明細書)を各保険者(健康保険組合)に提出し、各保険者から直接医療機関に支払われるという仕組みになっています。
ところがフランスでは、昔から「償還払い」が基本となっています。患者が診療費全額を医療機関で一旦支払い、ご自身が加入している保険者へ払い戻しの申請をすると、患者の自己負担分を除いた金額が返還される仕組みとなっています(一部例外あり)。
しかし、Carte vitale導入以降、支払方法に変化が見られました。カードを通す設備を備えた多くの医療機関や薬局でも、最初から自己負担分のみ支払う(日本と同じですね)ことができるようになってきています。
Carte vitaleで患者の診療情報を管理できるおかげで、医師や薬剤師が診療証書(Feuille de soins électronique)などを直接Assurance maladieに送付し、Sécurité sociale算定分の診療報酬を得ることができるようになった点が挙げられます。さらに、2017年1月からは、妊婦と慢性疾患の患者には医療費の支払い時、自己負担額のみの支払いで良いという権利が作られました。また薬局では、薬剤師によるジェネリック医薬品の処方に同意している場合のみ適用されます(2017年7月現在)。
一方Mutuelleは、徐々に窓口支払い時に自己負担額のみの支払いが可能なケースが増えてきています。しかし、加入内容によっては償還払いになる可能性もありますので、Mutuelle加入時に確認するようにしましょう。
最後に、償還払いの際の還付請求方法についてのご説明です。紙の診療証書(Feuille de soins papier)に必要事項を記入し、そちらを最寄りの保険事務所に郵送または直接提出しましょう(通院・退院後48時間以内)。その後、早くて48時間後(遅くても5日以内)には、ご自身の登録した銀行口座に自己負担額を除いた金額が返還されます。Carte Vitaleを提示しなかった場合も、こちらの還付請求をご自身で行ってください。紙の診療証書は、必要に応じて受診した医師から渡されます。記入方法は以下を参考にしてください。
“Bien remplir sa feuille de soins”(SMEREPホームページ)
https://www.smerep.fr/ckeditor_assets/attachments/58ff28a9756d6731bb0112bb/feuille-de-soins-20170424.pdf?1493117096
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<医療費支払い方法>今ココ
・医療機関受診における1ユーロの負担金義務(Participation forfaitaire)
・薬や医療補助的な施術における0,50ユーロの負担金義務(Franchise médicale)
<Sécurité socialeによる保障について>
フランスにおいて、基礎医療保険によって賄われる医療費の償還率は、基本的に次のようになっています。こちらはSécurité socialeの定める償還ベースが基準となります。自己負担分は日本と似ていますが、かかりつけ医制度の影響があることに注意しましょう。
(2017年7月現在)
【医療費の償還率】
かかりつけ医を通じて医療機関受診:診療費の70%(自己負担分は30%)
かかりつけ医を通さず医療機関受診:診療費の30%(自己負担分は70%)
※歯科・口腔外科医への受診は、大きな外科的処置をする場合を除いて、かかりつけ医を通さずとも基本的に診療費の70%が還付される。
病気やけがの種類、処置や処方によって、償還率と患者の自己負担金額は異なる場合があります。その他の償還率の一例も挙げておきます。
(2017年7月現在)
看護処置やマッサージ・整骨、運動療法等の医療補助的処置:医療費の60%
諸臨床検査:60から70%(エイズ・C型肝炎に対する検査は100%)
眼科:60%(眼鏡に関しては保障上限額などの細かな規定あり)
補聴器:60%
整形外科:60%
医療機関へ(から)の輸送費:65%
など
細かな規定については、ここですべてを説明することができませんので、必要に応じてAssurance maladie事務所等に確認してください。
残りの自己負担分は、Mutuelleに加入している場合、保障内容によっても異なりますが、そちらで補てんされます。このように、フランスの2階式医療保険制度は、結果的に自己負担金額がほぼかからない形を作ることが可能ということになります。
しかし、かかりつけ医を通さずに医療機関を受診し、ペナルティを受けて増加した自己負担分は、基礎医療保険からも、Mutuelleからも補填されません。
・歯科・口腔外科診療費の償還率
歯科治療関係の受診に関しては、規定が少し異なりますので、解説いたします。
歯科治療に関しては、かかりつけ医を通さずに診察を受けても、基本的には70%の診察料還付が受けられるという点が他と大きく異なります。
ただし、大がかりな外科的処置を必要とする場合のみ、かかりつけ医を通す必要があります。(2017年7月現在)
歯科・口腔外科(及びその中の形成外科専門医):
基本診察料…23ユーロ
Sécurité sociale算定基準…23ユーロ
償還率…70%
口腔学医:
基本診察料…28ユーロ(セクター1)、自由診療(セクター2)
Sécurité sociale算定基準…28ユーロ(セクター1)、23ユーロ(セクター2)
償還率…70%(セクター1・2)
歯石除去:
基本診療費…28,92ユーロ
償還率…70%
虫歯:
基本診療費…16,87ユーロ(1本)、28,92ユーロ(2本)、40,97ユーロ(3本以上)
償還率…70%(各本数共通)
(虫歯等への)かぶせもの:
Sécurité sociale算定基準…107,50ユーロ
償還率…70%
(虫歯等への)充填物:
Sécurité sociale算定基準…122,55ユーロ
償還率…70%
歯列矯正器具(1から3本)
Sécurité sociale算定基準…64,50ユーロ
償還率…70%
など
※1ユーロのParticipation forfaitaire(次項目で説明)は、歯科・口腔外科医の診察においては支払不要。なお、口腔学医の診察では、いくつかの例外を除いて支払い義務が生じる。(2017年7月現在)
歯科装具のSécurité sociale償還率は基本70%となっていますが、歯科装具の金額は医師が自由に設定しているため、値段はまちまちです。また、材質によって、別途材料費がかかる場合もあるため、必要な場合は医師に確認しましょう。
・眼鏡・コンタクトレンズに対する償還率
先述した通り、眼科の診察料は基本償還率60%ですが、眼鏡やコンタクトレンズの処方が出た場合、それらの作成にかかる費用の償還が別枠で設定されています。保険適用で眼鏡が買えるとは驚きですよね。
眼鏡の償還はフレームとレンズによって償還率が分けられ、さらにレンズは度数によって差がつけられています。眼鏡を作りたい場合は、眼科医(Ophtalmologiste)から処方箋を受け取り、眼鏡屋さん(Opticien)へ依頼しましょう。視力の変化などで眼鏡を作り直したいときにも、眼科医からの処方箋が必要となります。償還率は以下の通りです。
眼鏡のフレーム:
Sécurité sociale算定基準(2,84ユーロ)の60%
眼鏡のレンズ:
各種レンズに対する算定基準の60%
(例)無色・1焦点・度数-6,00~+6,00…2,29ユーロ/1枚(の60%)
また、コンタクトレンズを作る際も、同じく算定基準の60%が償還されます。こちらの算定基準は、コンタクトレンズの種類(1 day、2 week、ハード、ソフトなど)に関係なく一律39,48ユーロに設定されています。(2017年7月現在)
また、眼鏡・コンタクト共に、年間の払い戻し上限が定められています。その年の1月1日から12月31日までの期間において、眼鏡は、1年につき1本まで。コンタクトレンズは、1年につき39,48ユーロまでです。
Mutuelleにも加入している場合は、更なる保障を得られる場合もありますが、年間の保障上限を設けていることが多いです。会社やプランによって異なってきますので、Mutuelle加入時にご確認ください。
・医療機関受診における1ユーロの負担金義務(Participation forfaitaire)
一般に医療機関を受診し、医師による診察や医療処置、医学的検査(レントゲンや生検など)を受ける時には、基本的に最低でも「1ユーロ」の負担義務が生じます(1月1日から12月31日までの年間1人当たり50ユーロまで)。これは、その年の1月1日以降18歳以上である患者全員に課されます。フランスの医療制度の財源を確保し、保護する目的で2005年に定められました。ただし、義務免除となる例外がいくつか存在しますので、主な例を挙げておきます。
(2017年7月現在)
・18歳未満の乳幼児・子どもの診察
・妊娠6ヶ月以上の妊婦
・補足的CMUなどの補助を受ける低所得層
・外科手術や1日以上の完全入院(18ユーロの負担義務へ)
・歯科治療に関する受診
・Sécurité socialeからの償還が1ユーロ未満の場合(Sécurité socialeに未加入の医師(セクター3の医師)から診察を受け、払い戻しを受けられない場合など)
など
ちなみに、1日に複数の医師を受診した場合、最初の医師に対して1ユーロの負担金が課され、以降の医師に対する負担金義務はありません。また、同じ医師の診察・処置を複数回受けた際には、4ユーロを上限として、一回につき1ユーロの負担金が課せられます。また、この1ユーロの負担金はMutuelleからも償還されません
なお、2回目以降の診察時に、Sécurité socialeの負担分から1ユーロ引かれた形で払い戻しを受ける場合があります。診察日と患者の負担する1ユーロの支払日がずれる形となりますが、Assurance maladie事務所などに問い合わせると、状況を確認することができます。
・医師の分類と診察料規定
フランス医療制度の下では、医師を3つのセクターに分類できます。
・セクター1:
Sécurité socialeに加入しており、定められた算定基準で診察を行う医師(保険診療)
・セクター2:
Sécurité socialeに加入しているが、診察料を自由に決定できる医師(半自由診療)※
・セクター3:
Sécurité sociale未加入の医師(自由診療)
※セクター2の医師はさらに2種類に分割できる。
・Contrat Optam(またはOptam-CO)という契約にサインし、算定基準の超過額が制限されている医師
・Contrat Optamにサインしていない、算定基準の超過額に対する制限のない医師
各セクターの医師によって、診察料規定が異なるのが特徴です。一般医をかかりつけ医に指定して受診した場合の診療費計算方法について説明します。
(2017年7月現在)
・セクター1の医師:
診察料がSécurité sociale算定基準と同じ25ユーロ(2017年5月1日からで、以前は23ユーロだった)
(例:診察料25ユーロの一般医)
① 診察料:25ユーロ
② Sécurité sociale負担分:算定基準(25ユーロ)の70%=17,5ユーロ
③ 自己負担分:算定基準の30%(①-②)=7,5ユーロ
④ Participation forfaitaire:1ユーロ
合計自己負担分:③+④=8,5ユーロ
・セクター2の医師:
Sécurité socialeの算定基準を超えて医師がそれぞれ診察料を決定
(Contrat Optam にサインしている医師:Sécurité socialeの算定基準は25ユーロ)
(例:診察料30ユーロ)
① 診察料30ユーロ
② Sécurité sociale負担分:算定基準(25ユーロ)の70%=17,5ユーロ
③ 自己負担分:算定基準の30%(①-②)=12,5ユーロ
④ Participation forfaitaire:1ユーロ
合計自己負担分:③+④=13,5ユーロ
・セクター2の医師:
Sécurité socialeの算定基準を超えて医師がそれぞれ診察料を決定(Contrat Optam にサインしていない医師:Sécurité socialeの算定基準は23ユーロ)
(例:診察料50ユーロの一般医)
① 診察料50ユーロ
② Sécurité sociale負担分:算定基準(23ユーロ)の70%=16,1ユーロ
③ 自己負担分:算定基準の30%(①-②)=33,9ユーロ
④ Participation forfaitaire:1ユーロ
合計自己負担分:③+④=34,9ユーロ
・セクター3の医師:
Sécurité socialeに未加入の医師であり、完全自由診療
(例:診察料50ユーロの一般医)
① 診察料50ユーロ
② Sécurité sociale負担分:0%
③ 自己負担分:診察料の100%
④ Participation forfaitaire:不要(Sécurité socialeの負担分が1ユーロ未満のため)
合計自己負担分:③=50ユーロ
上記の例を見ていくと、Sécurité socialeによる70%の負担は、あくまで「Sécurité socialeが定める診療費の算定基準」を基にして計算されていることがわかります。日本のように、総医療費に対して3割の自己負担というわけではありません。また、Mutuelleに加入している場合、各例の③自己負担分に対して保険適用を受けられると考えられます。その他にも、かかりつけ医から紹介されて受診した医師の診察料や、神経・精神科に対する診察料など、受診する医師や診療科、受診の仕方によっても、それらに対するSécurité socialeの算定基準は変わってきます。
ここでは、受診する医師には所属するセクターがあり、そのセクターに応じて診察料が変わるという点を押さえましょう。
・薬の費用の償還率
フランスは、医薬完全分業制となっており、外来での薬の処方は一切ありません。医師が発行した処方箋を薬局へ持参し、薬を購入します。
その際の処方薬の償還率は、薬価や投与薬剤の重要性などを鑑みた上で、それぞれに差がつけられています。簡単にまとめたものを下記に記載します。
(2017年7月現在)
・薬価が高い、または治療のために代わりが利かないと認められる薬剤:100%(HIV薬、糖尿病薬、抗ガン剤 など)
・重大または重要な医療処置に必要な高い治療効果を持つ薬剤:65%(抗生剤 など)
・急性疾患などに対応する中度の治療効果を持つ薬剤:30%
・薬剤の中でも程度の治療効果を持つ薬剤:15%
など
またそれに加えて、特定の薬に対しては、TFR(Tarif forfaitaire de responsabilité)という特定の償還基準が設けられています(6章F-c「薬の償還率について」を参照)。
このように処方される薬によって償還率が異なる点は、フランス医療保険制度の特徴の一つと言えますね。
日本人にはこういった制度は、なかなか馴染みがないので、少し複雑に感じられますよね。ここでは大まかな枠組みのみ提示していますが、医療機関で処方の指示が出た際は留学生にも関係してきますので、チェックしておきましょう。
・薬や医療補助的な施術における0,50ユーロの負担金義務(Franchise médicale)
薬局で処方される薬や医療補助者による処置(看護師による処置や運動療法士による処置など)、患者の輸送に対しても、処置料等とは別に負担金が患者に課されます。2008年から始まったこの制度は、薬の処方や医療補助者による処置に対して、1回(薬は1箱または纏めた1包装)につき0,50ユーロ。患者輸送費に対しては、1回2ユーロの支払義務が発生します。
いずれも年間50ユーロの上限はありますが、一方で1日の負担上限は、処方薬に対して無制限。また、医療補助者による処置は1日2ユーロで、患者輸送費に対しては1日4ユーロまでと決められています(2017年7月現在)。
その他の基本的な規定や例外事項は、医療機関受診時の1ユーロ負担の内容とほぼ同じです。
・高額医療費に対する18ユーロの負担金置き換え措置
高額医療費に対しては、別の負担金義務があります。こちらはある一定額以上の治療費などを一定額の負担金に置き換える措置、と言い換えられます。具体的には、120ユーロかそれ以上の処置費用や入院費用などは、一律18ユーロを支払うというもの。この18ユーロは、診察や処置などを受けた医療機関や検査機関で支払います。1ユーロの負担金などとは異なり、Mutuelleに加入している方は償還が受けられます。(2017年7月現在)
諸条件はかなり細かく規定されているため、すべてを述べることはできませんが、処置やケースによってはこの措置が適用されないこともあります。
必要に応じて、最寄りのAssurance maladie事務所等に問い合わせることをお勧めします。
患者の高額な医療費負担を軽減するために整備された措置ですね。大きな病気やケガはしないに越したことはありませんが、知識があると安心ですよね。
・入院費の償還率
万一、フランスで入院をするとなると、ある程度まとまった費用が掛かることは覚悟しなければなりません。日本に住んでいても、入院時のことを考えると不安になってしまいますが、慣れない海外生活においては尚更ですよね。
嬉しいことにフランスでは、保険適用で入院をすることができます。入院費のSécurité sociale償還率は80%ですので、残りの20%が自己負担、もしくはMutuelleによって償還されるシステムとなっています(2017年7月現在)。
ちなみに、こちらでいう入院費(Frais de l’hospitalisation)とは、「入院中の病院の使用料」と定義づけられます。例えば、病室の滞在費用、手術室の使用料(手術費用)、医療補助の費用(看護師などによる処置)、入院中の治療に関連する検査などが含まれるとされます。テレビや個室の使用料といった個人的な事情によって使用する設備は、自己負担となります(Mutuelleのオプションなどで保障される可能性あり)。
しかし、条件によってはSécurité socialeが全額負担するため、自己負担がなくなることがあります。代表的な例を挙げますので、確認しておきましょう。
(2017年7月現在)
・30日以上連続して入院している場合(31日目から適用)
・出産前の4ヶ月間の入院と出産後12日間の入院
・仕事上のけがや病気での入院
・長期療養疾患での入院
・補足的CMU等の医療補助を受けている患者の入院
など
また、入院費の償還手続きは、入院証明書(Bulletin de situation ou d’hospitalisation)と退院書(Bon de sortie)を、退院後48時間以内に病院がAssurance maladie事務所に送付する形で行います。2017年7月現在、公立病院では支払い時に自己負担分のみ支払い可能な場合が多いようですが、基本は全額支払った後、Sécurité socialeから払い戻されます。事前に医療機関へ確認しておくことをおすすめします。
このように日本と同様、入院費の保障も行うフランスの医療保険制度ですが、やはり入院と外来診療では費用のかさみ方が違います。病院や処置によってはSécurité socialeがあったとしてもかなり高額になる可能性が否めません。救急以外の入院の際には、医療機関や治療内容をよく検討をすることと、万一の救急入院に備えて、Mutuelleなどを考慮するようにしたいものです。
・入院時における18(13,5)ユーロ負担
先述したようにフランスの医療保険制度では、基本的に入院費の80%をSécurité socialeが負担し(例外あり)、残りの20%がMutuelleによって賄われます(保障内容により異なる)。
では、Mutuelleへ加入している入院患者のすべてが医療費無料になるのか、と言えば、残念ながらそうではありません。いくつかの条件下にある場合を除いて、1日につき18ユーロまたは13,5ユーロの入院費負担が、患者に義務付けられています。
(2017年7月現在)
一般的な病院・診療所:18ユーロ/日
保健施設の精神科:13,5ユーロ/日
これらはSécurité socialeによる還付対象とはなりません。プランによってはMutuelleにて費用を負担してもらえる場合もあります。詳しくはAssurance maladie事務所等に問い合わせください。
また、18(13,5)ユーロの入院費負担が免除されるいくつかの例外があります。ここでは一部を紹介します。
(2017年7月現在)
・補足的CMUなどの医療補助を受けている低所得者
・妊婦の入院(出産前4ヶ月間、出産時または出産後12日間)
・仕事中の事故や職業病が原因の入院
など
こちらでは、フランス医療保険の概略をご紹介してまいりました。フランスの医療保障制度は、とても複雑ですので、分かりづらいところも多いと思います。
しかし、上手に利用すれば医療費の自己負担金額をかなり軽減することができる心強い味方となりますので、こういった制度があることは覚えておきましょう。